BL6N1 軟X線XAFS・光電子分光 Ⅰ

目次

 

ビームライン概要

 

BL6N1は軟X線と硬X線の中間領域のX線(テンダーX線)を励起光とするX線吸収微細構造分光(XAFS)及びX線光電子分光(XPS)が可能なビームラインである。蓄積リングからの白色光の単色化には二結晶分光器(分光結晶はInSb(111),Ge(111),Si(111)の3種から選択可能)を用いる。本ビームラインのXAFS測定でカバーする元素はK吸収端でSi~Cr、L3吸収端でRb~Prである。
ビームライン末端には真空XAFS・XPS装置と大気圧XAFS装置が直列で設置されている。前者の装置では、超高真空下でのXAFS測定とXPS測定が可能である。後者の装置ではチェンバー内をHe雰囲気にすることにより大気圧下でXAFS測定を行うことができる。

光エネルギー 1.75~6 keV (0.7~0.2 nm) ※分光結晶による

ビームサイズ

(水平方向×垂直方向)

2 mm × 1 mm(集光モード)

2 mm × 2 mm(高エネルギー分解能モード)

エネルギー分解能(E/ΔE) > 2000 @ 3 keV(計算値)
光学系

前置鏡:ベントシリンドリカルNiコートSiミラー(トヤマ製)
分光器:二結晶分光器(2カム式、神津精機製NSM4R)
     分光結晶:InSb(111), Ge(111), Si(111)より選択可
※次項「ビームライン光学系」も参照されたい。

分光分布
測定可能元素

どちらの測定装置もトランスファーベッセルを用いた大気非暴露試料導入にも対応している。本ビームラインで可能な測定モードについては下記一覧表を参照のこと

  

BL6N1で利用可能な測定法一覧

測定装置 試料ホルダー XAFS 光電子分光
電子収量 蛍光収量 透過法
TEY/CEY AEY PFY
真空XAFS・XPS 通常 ×
TV ×
大気圧XAFS(He) 通常 × ×
TV × × ×
ガス導入セル × × × ×
  • TV:トランスファーベッセル,TEY:全電子収量,CEY:転換電子収量,AEY:オージェ電子収量,PFY:部分蛍光収量。
  • 大気圧(He雰囲気下)XAFS測定装置において,トランスファーベッセルで大気非暴露で導入した試料のCEY-XAFSが可能になりました。(2021.11~)
  • 真空測定装置でPFY-XAFSが可能になりました。(2021.5~)
  • ガス導入セルではCEY-XAFSはできません。
  • 大気圧XAFS装置で透過法によるXAFS測定が可能になりました。(2025.6~)

 

ビームライン光学系

 

蓄積リングの常伝導偏向電磁石部から放射される白色光は、水冷マスク(光源点から3 m の位置、図中では略)及び水冷4 象限スリット(図中4WS1と表記)により整形されたあと、前置鏡(M0)による全反射、Be フィルターによる低エネルギー成分の除去、二結晶分光器(DXM)による単色化、手動4象限スリット(4WS2)による迷光の除去を経て、ビームライン末端の実験装置に到達する。

 

エンドステーション(ビームライン末端実験装置)

 BL6N1 のビームライン末端には、 真空XAFS・XPS装置と大気圧XAFS 装置がビームライン光軸方向に並んで設置されている。両者の間には直径15 mm、厚さ20 μm のBe 窓があり、このBe 窓を介してシンクロトロン光を大気圧XAFS 測定槽に導入している。

 

真空XAFS・XPS装置

超高真空下(10-7 Pa台)でXAFSとXPSの測定が可能である。本装置は、測定槽、試料準備槽、試料導入槽の3つの真空チェンバーから構成されている。

 XAFS測定については、試料電流法による全電子収量(TEY)XAFS、シリコンドリフト検出器を用いた部分蛍光収量(PFY)XAFSのほか、電子分光器を用いたオージェ電子収量(AEY)XAFSにも対応している。これらの手法はPFY(数~数十um)、TEY(十数~数十nm)、AEY(数nm)と分析深さが異なるが、これらの手法の同時測定により、同じ試料の異なる深さからの情報を同時に得ることができる。

 XPS測定については、励起エネルギーが比較的高いため(推奨3 keV)、通常の実験室XPS(~1.5 keV)よりも分析深さの深い測定ができる。また、励起エネルギー可変(実用的な範囲:1.75 – 5 keV)であるため、分析深さの調整やAuger電子の重畳の回避も可能である。絶縁物試料に対しては、中和銃を用いて試料帯電を抑制することも可能である。

本装置で可能な測定

※上記3つは同時測定可能

 

本装置の装備

 

サンプルプレート(真空XAFS・XPS用;BL7U,BL1N2と共通)

サンプルプレート(BL7U,BL1N2と共通)に装着された試料は、試料導入槽のサンプルプレートバンクに装填され、試料導入槽の真空排気後、測定槽に搬送され、測定に供される。

 真空チェンバー用サンプルプレート図面は こちら

試料調整方法の解説資料 参考資料

 

サンプルプレートバンク(試料挿入槽)

 

トランスファーベッセル(真空XAFS・XPS用;BL7U・BL1N2共通)

 

真空XAFS・XPS装置用トランスファーベッセル。大気非暴露で試料を装置に導入することが出来る。本トランスファーベッセルはBL7U及びBL1N2と共通仕様となっている。

※大気圧XAFS装置用トランスファーベッセルとは互換性がありません。

詳しい使用方法はこちらをご覧ください。

 

大気圧XAFS装置

 

 

本装置では大気圧He雰囲気下でXAFS測定を行う。本装置を用いれば、液体や湿潤状態にある試料の測定が比較的容易で、製造現場や材料の実試料に近い環境での測定も可能である。

全電子収量法の一種である転換電子収量(CEY)XAFS、シリコンドリフト検出器を用いた部分蛍光収量(PFY)XAFSに対応している。これらの手法はPFY(数~数十um)、CEY(十数~数十nm)と分析深さが異なるが、これらの手法の同時測定により、同じ試料の異なる深さからの情報を同時に得ることができる。加えて、Siフォトダイオード付きフランジを測定槽に装着すれば透過法XAFS測定も可能である。

 

本装置で可能な測定

※CEYとPFYは同時測定可能

※透過法測定用のSiフォトダイオードは常設しておりません。測定を希望される場合は事前にご相談ください。

※測定槽置換用のHeガスは一般純度のもの(純度:99.995%)を使用しています。

本装置の装備

 

サンプルプレート(大気圧XAFS用)

サンプルプレートは大気圧XAFS専用である。試料を装着したサンプルプレートを専用アダプターに取りつけ、測定槽下部からトランスファーロッドにより測定槽内に引き上げ、上部の電極に接続することにより、試料導入を行う。

  

※ビームサイズより大きく測定可能範囲に収まる試料サイズであれば測定可能(ただし、試料厚みと入射角度を考慮する必要あり)

※サンプルプレートを上回るサイズの試料については要相談

大気圧チェンバー用サンプルプレート図面は こちら

試料調整方法の解説資料 参考資料

 

トランスファーベッセル(大気圧XAFS用)

大気圧XAFS装置専用トランスファーベッセル。大気非暴露試料導入に用いる。

詳しい使用方法はこちらをご覧ください。

※本トランスファーベッセルは真空XAFS・XPS装置用トランスファーベッセル(BL7U, BL1N2と共用)との互換性はありません。

 

その他の設備

I0モニター

BL6N1ではI0モニターとして金属製のメッシュを真空XAFS・XPS装置の上流のチェンバーに設置している。メッシュの材質は金と銅の2種類から選択できる。

 

常設標準試料

真空XAFS・XPS装置の上流のチェンバーに下記標準試料を常設しており、これらの試料の全電子収量XAFS測定が可能である。

SiO2 (powder), K2SO4 (powder), Ca3(PO4)2 (powder), KCl (powder), Rh (powder), Pd (plate), Ca(OH)2 (powder), Ag (plate), TiO2 (powder)

※これらの試料は設置してから何年も経っておりますので品質の保証はできません。

※上記以外の標準試料が必要な場合はご自身でご準備ください。 

 

ガス導入セル(大気圧XAFS用)

In-situ測定用のガス導入セルを整備しており、大気圧XAFS装置に装着可能である。

ご利用を希望される方はご相談ください(事前相談必須)。

 

 

測定例

様々な硫黄化合物のS K-edge XANES

FeS2 (黄鉄鉱) の S K-edge XAFS ~ CEY vs. PFY ~

 

 

CEY法による帯電緩和の例(輪ゴム中のSの分析)

 

分析深さの励起エネルギー依存性:SiO2(10 nm)/Si の XPS

 

化学状態選別オージェ電子収量XAFS

 

分光結晶によるエネルギー分解能の違い

参考資料


 

(最終更新2025.11.19)